清野さんがやっているのは非常に血の通った仕事
清野さんの実況芸シリーズ、今回が14回目の開催ですが、前回がハマ・オカモトさんからしばらく時間が空きました。
清野茂樹:2022年6月の開催ですから、2年ぶりですね!
たなかみさき:あ、もうそんなに経つんですね。
清野:去年はソロで〈実況芸〉のイベントはやったんですけどね。ゲストを迎えての対戦形式は、コロナ前は年に5回くらいやってたこともあるんですけどね。
今回、久しぶりの開催のお相手が、イラストレーター、ラジオDJなどで活躍されているたなかみさきさん。その経緯は?
清野:2年くらい前になりますかね。僕のラジオ番組『真夜中のハーリー&レイス』(ラジオ日本)に、挑戦者というか、ゲストで出ていただいたんです。ところが、そのとき直接お会いできなかったんです。たなかさんがスタジオにいるのに僕のほうが家にいてリモートで出演することになった。それは僕サイドのやむをえない事情だったんですが、そういうケースってそれまで一度もなかったんですね。リスナーからも「(直接対戦できなかった)清野は負けじゃないか? ベルト返上なんじゃないか?(※ラジオのゲストは清野のベルトへの挑戦者という設定)」という指摘をいただいたりしました。その返礼をしないといけないなと、ひとつ引っかかっていたというのがあります。
コロナ禍ならではの事情ですね。そもそも、清野さんはたなかさんをどのように知ったんでしょう?
清野:最初は絵です。そのあと、たなかさんがラジオ番組を知っているというのを知って、聴くようになり、イベントのグッズで絵を発注したという流れだと思います。
そうでした。ハマさんの回で、Tシャツのイラストをたなかさんが担当されてました。
清野:たなかさんはご自身のラジオ番組(J-WAVE『Midnight Chime』)で悩み相談をしているので、『真夜中のハーリー&レイス』に出演していただいたときも、「せっかくだから僕の悩みも相談させてください」とお願いしたんです。その相談というのは「僕のイベントはいつもお客さんが集まらない。こんなに懸命にやっているのに、なぜ人気がないのでしょう? 人気を得るにはどうしたらいいですか?」というものでした。そしたら、たなかさんの回答は「清野さんがやっているのは非常に血の通った仕事なので、人気うんぬんなんかよりも素晴らしいことだと思います」だったんです。それが僕の頭にずっと残っていて、いつか一緒にお仕事できたらいいなと思い、今回ひさびさに開催するにあたってお願いした次第です。
たなかさんは、清野さんが続けているこの〈実況芸〉シリーズについては、何か事前にご存じでしたか?
たなか:最初のきっかけは、ハマさんのゲスト回でグッズとして販売されたTシャツのイラストの依頼だったんです。私にとっては、それが清野さんを知るきっかけでもありましたし、そのご縁でラジオにも出演させていただきました。清野さんは、なんとなく「プロレス関連の方なんだな」と認識はしていました。〈実況芸〉については、ゲストとしてのオファーいただいてから、あらためてホームページを見て、いろいろなコラボをされていると知ったという感じです。
オファーには驚かれませんでした?
たなか:そうですね……「私でよければ」という感じで引き受けました。
清野さんはどういうイメージでオファーされたんですか?
清野:うーん。実は、イラストと実況のコラボは以前に寺田克也さんをお招きした回(セッション9、2020年12月15日)があったんです。
すごく面白い回でしたよね。
清野:その経験があるので、絵を描く人と僕の実況とのイベントは成立するだろうなという予測はある程度ありました。あと、その寺田さんとの回がすごく評判がよかったんです。プロレスや実況に興味がない人が見てもあれは本当に面白かったという声が多かったんですね。
プロレスってすごく足し算なイメージがある
とはいえ、寺田さんはプロレス・ファンだったし、話が通じやすい部分も多かったと思うんです。たなかさんは、プロレスへの興味はどんな感じですか?
たなか:まったく全然わからなかったんです。独特の世界観とか、昔から続いている感じはすごいなと気になってはいたんですが、まだそんなに詳しくないです。ただ、清野さんとの共演は、ラジオではいつもやっていることに近いかなと思ってます。お悩みをリスナーさんに相談していただいて、私が即興でイラストを描いて答えるということをやっているので。なので、今回はあまりプロレスに詳しくない私と、清野さんが一緒に何かを考えてくれると楽しいかなと思ってます。プロレスのことを私も教わりながら、一緒に作れるイベントになればいいですね。
それは面白そうですね。ゼロからのプロレス入門をイラストと実況でやっていくような?
清野:そうですね。題材をプロレスにすることになるとは、僕はまったく思ってなかったんです。むしろ寺田克也さんとは違って、たなかさんの世界に僕が入っていくことになるんだろうなと思っていたので。それが、打ち合わせでたなかさんとお話をしたら、「プロレスの世界に興味があります。そういうのを描いてみたいです」とおっしゃったので、ちょっとびっくりしました。でも、そう言っていただけるのならありがたいし、今回はわりと僕のほうの土俵に上がっていただく感じになるのかな。
たなかさんもラジオでしゃべっていらっしゃるし、おふたりはラジオDJ同士でもあるんですよね。語り口は好対照ですが。
清野:両方、(放送が)真夜中というのも似てますね。それに、たなかさんはびっくりするくらいお話が上手なんですよ。
たなか:ありがとうございます(笑)
清野:絵を描く方にもいろんなタイプがいると思うんです。しゃべるのが苦手な人もいるでしょうしね。でも、たなかさんはしゃべるのがうまい。あと、リスナーからの悩みに対して絵で返事できる頭の回転の速さがあるし、寺田さんがそうだったように実際に絵を描く速さもある。そういう人はこのイベントにたぶん向いてるなと思うんです。
たなかさんがラジオでしゃべるようになったきっかけというのは?
たなか:イラストレーターとしてゲストで出演させていただく機会が増えてきて、そこからJ-WAVEの方に「1クールくらいの気楽な感じで番組やってみませんか?」と声をかけていただいたのが最初です。それが気がつけば5年も続いていて。もう全然話すことないや、ってくらいなんですけど(笑)。あと、音声コンテンツとイラストって意外と相性がいいんだなということは、ラジオをやってて思いました。音は見えないけど、イラストはSNSを通じて見てもらえるし、かたちに残るものをラジオで作れるっていいことだなと思います。
確かに、実はラジオって、ある意味マルチメディアでもある。
清野:しかし、本当にね、たなかさんはラジオでのお話がお上手なんですよ。今たなかさんがお住まいの熊本のご自宅で、ひとりで収録されている回もあるんですが、あれは本当に難しい。ラジオのスタジオだと周りにスタッフがいて盛り上げてくれたり、目の前に聞き役がいてくれたりするんですけど、家であの間合いでしゃべれるのはすごいなと思いますね。
たなか:私、結構ダラダラとしゃべってますよね(笑)
清野:でも、その自然な感じが出てるのがすごいんです。
たなか:そういう感じを意識してスタッフが編集で残してくれていると思うんです。編集で間を詰めたりしない。悩んでる間を結構使ってくれるので、それに助けられてますね。人間っぽい部分というか。
そこはまた清野さんの実況とは違ったスタンスですよね。実況って、どうしても隙間恐怖症みたいなところがある。
清野:そうですね! (隙間を)埋めないと怖い。あと今回のイベントでも、たなかさんが絵を描いているところを僕が言葉で補足するわけじゃないですか。それって本当はすごく野暮なことじゃないかという心配もあります。
たなか:でも、プロレスってすごく足し算なイメージがあるので、私はその足し算感を味わいたいというか。盛り盛りのテーマパークみたいな。私は絵もシンプルだし、ラジオも口数がそんなに多くないので、今回、自分と違うエッセンスを取り入れるのはすごくいいことなんじゃないかと思ってます。
清野:うまくフィットするかわからないですけどね。やってみたら情報過多になって絵の雰囲気を壊してしまうかもしれない。でも、この日限りの出来事ということで、ご了承いただけたらと思ってます。
2人で架空のプロレスラーを作り上げようかな
今回、たなかさんは何かのお題で絵を描かれるわけですよね。寺田克也さんとのイラストとのセッションもそうでしたが、最終的に共同で仕上げた作品が残るというのは、話芸との対戦とは違ういいところですよね。
清野:確かに、そうですね。さっき、題材をプロレスにするという話がありましたが、2人で架空のプロレスラーを作り上げようかなと思っています。お客様からアイデアをいただいて、それをもとにたなかさんが絵を描いて、それを僕が実況でキャラ付けすると。それがまず普通のパターン。先に絵を描いてもらって、後から実況で追いかける。その次のパターンでは、先行と後攻をひっくり返して、お客様からいただいたアイデアをもとに僕が実況をして、それを聞いて浮かんだレスラーをたなかさんに描いてもらおうと思ってます。
題材だけでなく、やりとりもめちゃプロレス的じゃないですか(笑)
清野:はい。ユニークだと思います。
現実のプロレスの世界にもマスクマンとか、ありえないリングネームとか、面白いレスラーはいっぱいいるんですが、たなかさん、事前にそのあたりをリサーチとかされますか?
たなか:はい、少しだけ。イベントに使用するグッズのイラストを描くうえで、コブラツイストを検索したりしました(笑)。正直、そこまで深くは調べてないんです。あんまり下調べしないほうが面白いかなという話は清野さんともしていたので。プロレスについて調べるというよりは、自分が根本的にスポーツができる強い人間とかに対して、どういう目線で憧れているのかを出せたらなと思ってます。私、昔から強い女性が好きだったんです。私がプロレスに惹かれるとしたら、それは強い人への憧れなのかもしれないなと思うし、そこらへんから下地を作っていこうと思います。
なるほど。興味深い。
清野:あと、イベントではデモンストレーションとして、たなかさんには、当日いらしたお客様の似顔絵を描いてもらおうと思ってます。僕はそれを実況するというのをやってみようかなと。そこはたなかさんの個人技でもあり、僕の個人技でもあるので、デモンストレーションとして一緒に見てもらうのはいいかな。
それは、いいプレゼント!
清野:そうなんです。やっぱりそこでしか味わえない体験や空間があるライブ感を大事にしたいので。
はたしてどういうレスラーが誕生するのかは当日までわからないですが、そのレスラーがまた独り歩きしはじめるかもしれない。
清野:出来上がるキャラクターは楽しみですね。
では、最後に当日に向けての意気込みをお聞きします。
たなか:そうですねえ。やることは即興なので、準備とかも難しいじゃないですか。まあ、自分とはちょっと遠いところにあるジャンルとのコラボは、もちろん観客の方に楽しんでいただきたいんですけど、結構「自分のために」という部分が大きい。自分としてはそういうふうにとらえているので、気合を入れてというか、プロレスのマインドを取り入れて、体を張って頑張るみたいな気持ちです(笑)
清野:セッション形式はひさしぶりなので楽しみにしてます。あと、女性が相手なのは初めてなんです。そこもちょっと新鮮ですね。
おふたりの話をお聞きして、当日はすごく楽しくなると予感してます。ちなみに、たなかさん、Tシャツのイラストに描かれたコブラツイストのかたちって、描くの難しくなかったですか?
たなか:すごく難しかったです。本当にヘビというか、迷路みたいでした(笑)
2024年6月12日オンラインにて収録
司会・構成/松永良平
たなかみさき(イラストレーター)
1992年埼玉県生まれ。日本大学芸術学部美術学科版画コースを卒業後にフリーのイラストレーターとして活動を開始。東京と熊本の二拠点生活を送り、人物の何気ない日常を描く。グッズ製作や出版物に関わりながら、J-WAVEでナビゲーターとしても活躍中。