15分で作曲するなんて地獄ですよ(笑)
清野さんの実況セッションシリーズ第4弾は「実況」と「作曲」という組み合わせなんですが。
清野茂樹(以下清野): 人に言っても理解されにくいんですよ。「なんですか、それ?」って言われてしまうんです。
クラムボン ミト(以下ミト): 「作曲してる状態を実況する」って言われてもねえ。
「実況を作曲するのかな?」みたいに受け取る人もいるのかなと思いましたが。
ミト: そうではないんです。あくまでお題をいただいた曲を僕が作り、その作ってる様子を清野さんが実況するんです。
しかも、その作曲をミトさんは、1曲わずか15分の制限時間でやらなくてはいけないというルール。
ミト: そうなんですよ(ため息)。
清野: あんまり長い時間(作曲作業を)見せてもアレなんで、時間を区切ってと思って決めたんですけど。
ミト: (制限時間15分は)地獄ですね(笑)。ひとことで言えば「地獄」です。15分でパッケージ状態まで持っていくなんて。
清野さんからのテーマはその場で決めるんですか?
清野: 2曲やっていただくんですけど、ひとつはもうテーマが決まってます。クラムボンの既存曲から「パンと蜜をめしあがれ」をリアレンジして作り変えていただこうと。これは見てる人もわかりやすいんではないでしょうか。
ミト: それは作曲というより「編曲」ですね。
清野: もうひとつのテーマは、まあ、プロレスの入場テーマを作っていただこうかなと。ただ、誰のテーマなのかは当日に発表します。
ミト: 私、プロレスのことまったく知らないんですよ。なのにプロレスラーの入場テーマって(笑)。プロレスの曲はなんとなくは知ってるんですけど、「ぜんぜん入場曲じゃねえじゃねえか!」みたいなもので終わってしまうことにもなるかもしれない。
清野: その曲が無事に完成したら、それに乗せて僕が実況をしますし、お客さんにも盤としてお持ち帰りいただきます。
それはいいですね。そういう企画だったんですね。
清野: そうなんですよ。このおもしろさが、なかなか伝わりづらいところがありますよね。
ミト: 曲を作ってる状態を見るのは、お客さんみんな初めてだと思うので。いまは作曲家はみんなパソコンのソフトを使ってるので、その画面をそのまま会場のスクリーンに投影して、その状態をみなさんは見る。その画面の動きを清野さんは補足するという。めっちゃスリリングなワークショップですよね(笑)
清野: 弾き語りであれば、より簡単なんでしょうけど、今回はそうじゃない。より完成度の高い状態までアレンジされた音楽パッケージをお客さんの前で作るということなんです。
ミト: 楽曲を作る様子を人に見せる機会自体は、ワークショップとかであると思うんです。でも、普通は3時間かけて1曲とかなんですよ。映画的なオープニングの曲の頭の部分とか、それくらいだと思います。もしくは事前にテーマ・メロディはできていて、そこから3時間でフル尺を作るとかだったらアリかな。でも、ゼロから編曲まで15分で仕上げるというのは、ないです! 途中までやってみて「違う」という場合もあるわけですよ。その間違いからはもう逃げようがないので、そいつを活かしきらなくちゃならない。
清野: まあ、こっちはそういうミスがあったほうが結構楽しいんですけどね(笑)。だから、本当に申し訳ないですけど、ミトくんにかかる負荷は大きいです。

ラジオで〈レコード・セメントマッチ〉やってました。
でも、その困難な対決を受け入れることをよしとしたお二人の関係性を、せっかくなのであらためて振り返っておきましょうか。
ミト: 最初の出会いは20年前ですね。私たちクラムボンがデビューしたときに、ラジオ番組を広島でやっていて。その番組パーソナリティが清野さんと私だったんです。
清野: はい、1999年ですね。広島県内でしかオンエアされていない番組です。広島FMに入社4年目の春に、クラムボンがデビューしたんですよ。当時、ヒットに携わりたいというか、新人を発掘したいし、大きくなっていくさまを追いかけたいという欲が僕にもありまして、それで「クラムボンとやりたい」と思って会社に企画を提案し、番組が実現したんです。クラムボンのメンバーなら普通は(原田)郁子ちゃんに行くんでしょうけど、僕はミトくんという人がおもしろいなと思って、ふたりでおしゃべりをする30分番組というのを立ち上げたんです。
ミトさんは、広島から来たオファーをどう思われたんですか?
ミト: メジャー・デビューしてすぐにその収録が始まったので、まだラジオ番組をやるというのがどういうことなのかあんまり理解してませんでしたね。言われるままに広島に行ったら「ラジオをやることになっている」ということで、「ああ、了解です」という感じでした。
清野: やっぱり、僕は東京生まれの人への憧れが強くて、「すげえ、やっぱり東京のミュージシャンだ!」っていう楽しさがありましたよ。あと、もししゃべる相手が郁子ちゃんだったら、女性だし、僕もちょっと遠慮するじゃないですか。その点、ミトくんは同性だし、気を遣わずに話ができるというのはありましたね。
その番組では、まだ清野さんはプロレス色は出してなかったんですか?
ミト: いやいやいやいや(笑)。そんなわけがない! だって、私は清野さんと会って初めてプロレスの入場曲に関するウンチクをいろいろ知りましたもん。それまではテレビで普通に観戦することはありましたけど、誰かの入場曲にプログレの曲が使われてるとか。
清野: そんな話してましたねえ。
ミト: その番組のコーナーでもタッグマッチ的なものがあって、お互いにテーマに対して曲を持ち寄ってかけていって勝者を決める、みたいなことをしてたんですよ。
清野: そうなんですよ。〈レコード・セメントマッチ〉ってタイトルでした。お互いにレコードを5枚ずつ持ってきて勝負するんです。
ミト: そのために私も広島に前乗りしてレコード屋さんで買ってましたから(笑)。しかも、当時はまだアナログレコードがラジオでかけられた。だから、私も昔のプログレが好きなんで、そういうレコードを持っていきましたね。
清野: ああいう企画で、ミトくんの音楽的知識にやられてましたね。ゴングとか持ってくるわけですよ(笑)
ゴング!(笑) いわゆるカンタベリー系のプログレの名バンドですけど、この流れでその名前を聞くと「プロレスのゴング」にしか思えないですね。
清野: 僕もハルク・ホーガンのレコードを持っていってかけてましたね。「これ、Charがギター弾いてるんですよ」みたいな話を当時もした気がする。

清野さん、いまとほとんど変わってないですね(笑)
清野: 変わってないですよ!
ミト: だから、私も東京に来てからの清野さんをももクロ関連の仕事とかで確認してるんですけど、本当に20年前とひとつも変わってないですよね(笑)。コンテンツが変わっただけで何も変わらない清野さんというのが、私のなかでは結構グッとくるんです。コンテンツが変わっても「清野茂樹」が出せるというのを見ていたから、(今回の企画も)「これは成立するだろうな」と思ったんです。
清野: 20年間、自分の表現を続けてきた者同士がお互いの技能を披露しあう場でもありますしね。
そこも含めてひとつのプロレスの試合のようだという面はありますよね。
ミト: こないだ私の知り合いのニッポン放送アナウンサーの吉田尚記と清野さんがしゃべってて、ふたりで同感してたのが、「弾き語りだったらミュージシャンはひとりでやって完結できるけど、実況ってひとりだけじゃ完結できない。そこにジレンマを感じてる」ってことだったんです。そのジレンマを、清野さんにとって永遠の仕事であるプロレス実況と掛け合わせて「対戦」というかたちで企画をやりたいという気持ちは、痛いほどわかる(笑)
そういう気持ちもあって対戦を受けた部分もあるんでしょうか?
ミト: そうですね。私なんか弾き語りでメロディを歌えばもう「作曲」になっちゃうんですけど、清野さんのジレンマというか渇望感に応えようと思えば、対戦する相手に生半可なことはできない。だからしっかりやろうと思ったら、えらいことになっちゃったんですけど(笑)。まあ、あとは「清野さんだから受けた」という面はあります。20年前に1年くらいラジオを一緒にやっていたし、不思議なもので若いころにそういうかたちで長く接していた人との縁って、あんまりすたれないですね。まあ、仕事は別々ですけど、会わない時間があってもあんまりさびしさを感じない。そこはちょっとクラムボンのメンバーとの関係にも似てるかもしれないですね。私たちも基本的には会わないけど、クラムボンをやるとなればまた自然にやれる。清野さんもライヴにはちょこちょこ来てくれるし、司会とか必要なときはことあるごとに清野さんを呼んだりしますし。
そういう意味では、いままでの対戦相手のなかではいちばん深い仲だともいえますね。
清野: そうですね。

プロレスの試合にたとえると今回は「同窓会マッチ」ですね。
こういうのをプロレスの試合としてたとえると、どういうものなんでしょうか?
清野: うーん。僕は「同窓会マッチ」かなという感じです。
ミト: 「同窓会マッチ」(笑)。なんだろうな、それ。聞いたこともない言葉が出てきますよね(笑)。ちょっと脳みその裏側の刺激を受ける感じで、楽しいんですよ。
清野: そう、だから今回の相手を決めるうえでは「20周年」というのは大きかったですよ。考えてみたら1999年に出会って一緒にラジオ番組をやって、ジャスト20年じゃないですか。これはやるとしたら「今」しかないでしょ。ここでやっとかないと、来年再来年じゃないのかなと。ちょっと細かい話ですけど、その番組の一回目の収録が1999年3月27日なんです。
お、今回の開催日とかなり近いですね。
清野: しかも、場所は青山でやるんですよ。青山といえば、当時、クラムボンが所属していたワーナー・ミュージックは北青山にありました。さらには、青山は昔、新日本プロレスの事務所があった場所でもあるんです。長州力が「青山」と言ったら、それは新日本プロレスのことを指すという、非常に意味合いのある土地なんです。
ミト: こじつけですか(笑)
清野: アハハハハハ。
なるほど。しかし、「同窓会マッチ」とはいえ、手ぬるいことはできないとミトさんも覚悟されていますからね。
清野: 僕としては「ミトさんに恥をかかせてはいけない」という気持ちもちょっとあるんですよ。仮に作曲がうまくいかなくなっても、それを僕はしゃべりでうまく補っていいものに見せないといけないという使命感もあります。
「両者リングアウト」的な決着もありという。
清野: そうです(笑)。ミトくんは聞いたことのない言葉かもしれないですが。
ミト: いやいや、「リングアウト」くらいはなんとなくわかります(笑)
当日ミトさんは、パソコンだけでなく楽器も持ち込まれます?
ミト: そうですね。ベースくらいは持っていこうかな。昨今はPCでも全部解決できる部分もあるんですけど、自分の十八番、楽器くらいはお客さんの目の前で弾いたほうがよろしいんじゃないかと思ってます。必殺技を出さないまま試合をしてはいけないかなと。
清野: やっぱり「延髄斬り」と「卍固め」がないとね。しかも、今回の素材になる「パンと蜜をめしあがれ」の歌の部分を、この対決だけのために原田郁子さんがわざわざ録音してくださったんですよ。
ミト: そうですね。郁子さんの新しく録った歌が聴けるイベントでもあります(笑)
ちなみに、実況されることによって作曲が変化してしまう可能性もあるんでしょうか?
ミト: そうならないために、たぶん私はヘッドホンをして、実況は聞かないようにします。聞いてたら集中できないと思うので。
清野: 邪魔されちゃう(笑)
ミト: 私はクリック(テンポ維持のため鳴らされる音)を聞きながら、パソコンの画面とにらめっこしてるのみ。
清野: 僕はミトさんにまったく聞かれてないのを承知で、一方的に弾を撃ち続けようかなと。
ミト: なんか言ってるのが聞こえちゃったら、どうなるかわかんないです(笑)
クリックとクリックの間に清野さんの言葉が入り込んでくるかもしれませんしね。
ミト: くると思いますけど、それに対して話しかけないで作業を続ける(笑)。それもまたドラマだなと思います。
なおかつ、それを実況として聞くという機会は前代未聞でしょうからね!
ミト: 楽しそうだし、その楽しい感じがずっと続いたまま本番はあっという間に終わってしまうんじゃないかと思ってます。そのためには、頭を軽くして、いつもと同じことをより集中してやれるようがんばります。しかし、この対戦で私に果たして「勝利」ってものはあるんでしょうか?(笑)
2019年3月12日 東京都港区 ラジオ日本にて収録
司会・構成/松永良平

ミト(サウンドクリエイター)
1975年東京都生まれ。1995年に原田郁子、伊藤大助とクラムボンを結成し、1999年にメジャーデビュー。リーダーとしてベース、ギター、鍵盤などを担当する。バンド活動のみならず、映画やアニメ音楽制作・プロデュースなど多岐にわたる活動で音楽ファンのみならず、プロミュージシャンの間でも高い評価を得ているサウンドクリエイターである。
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