ハルク・ホーガンのレコードに食いついた
清野さんのこのシリーズの人選にはいつも驚かされます。今回はベーシストのハマ・オカモトさん(OKAMOTO’S)。まずはいつものように馴れ初めからお聞きします。
清野茂樹: いちばん最初は10年くらい前で、J-WAVEのラジオ番組です。ハマさんがナビゲーターを務めていた番組『RADIPEDIA』にゲストで呼んでいただきました。そのとき「清野さん、レコードを持ってきてください」とスタッフの方に言われていて。僕はプロレス・レコードをコレクションしていますし、ハマさんはベーシストだから、やっぱりハルク・ホーガンの12インチ・レコードがいいなと。実はホーガンはプロレスラーになる前はロックバンドでベーシストをやっていたんで、日本でレコードを出したんですよ。
『一番(ITCH BAN)』ですよね。レコードはピクチャーディスク。僕も持ってます。本気でベース弾いてて、ちょっとフュージョンっぽかったような。
清野: ハマさんは世代的にホーガンじゃないだろうし、「実はバックをJohnny, Louis & Char(当時の名義はPINK CLOUD)がやってるんですよ」というトリビアをしゃべる、くらいのつもりだったんです。そしたら、ハマさんがすごい勢いであのレコードに食いついてきたんですよ。あれはびっくりしました。
ハマ・オカモト: 実は、ホーガンに食いついたわけではなかったんです。ちょうど同じ頃に、あのレコードのバックがPINK CLOUDだと誰かに教えてもらっていて、それで食いついたんじゃなかったかな。僕はルイズルイス加部さん(PINK CLOUDのベース)の大ファンだったので。
清野: あとであのレコード買われたんですよね?
ハマ: はい。7インチも買いました。あのレコードの話をCharさんにもしました。
清野: そうですか! Charさんはなんておっしゃってました?
ハマ: 「よくわからずに行って、蓋を開けたらハルク・ホーガンのレコーディングだった」みたいな仕事だったらしく、「会えてうれしかった」って言ってました(笑)。
つまり、最初はホーガンがつないだ縁だった、と。
清野: そのあともスペースシャワーの番組とかでごあいさつはしていましたが、ちゃんと再会したのは1年前、ラジオ日本の番組『真夜中のハーリー&レイス』です。
そのときに、もしかして清野さんとしてはハマさんをこのイベントの相手にどうだろうかと考えていた?
清野: ゲストにお呼びするときにいろいろ調べるじゃないですか。そのとき、この人は普通のベーシストというよりも、面白いことを積極的にやっていく人なんだなと僕は勝手に感じ取っていました。なので、ジャブ程度で反応を見るくらいの気持ちで「こういう企画、ご興味ありますか?」みたいな話をちらっとしたんですよ。そしたら、「全然やりますよ」と、いい感じのご返事をいただいて。以来、頭のなかではずっと候補としてありましたね。

聴こえなかったベースの音が聴こえるようになるかも
ハマさんは、清野さんのお誘いに対して、どんな印象でした?
ハマ: ラジオでの清野さんとのトークが、純粋にすごく楽しかったんですよ。『ハーリー&レイス』のときも、適当に返事したわけではなく、「ぜひぜひ!」という気持ちでした。スケジュールの調整で実現まではちょっと時間がかかりましたけど。
清野: すごい! そんなに真剣に感じていただいていたとは。
ハマ: イベントが決まってから、先日もTOKYO FMの『THE TRAD』という番組のゲストで清野さんに来ていただきました。そのときも、「(このイベントは)一流のプロとやりたい」とおっしゃっていて。僕もそっくりそのまま同じことを思ったんです。何でもかんでもやりたいわけじゃない。清野さんは、音楽家としての自分をきちんと尊重してもらえる方ですし、(実況アナとして)すごいのはよくわかってるので、その土台に僕が乗っかることで自分も面白くなれることなんじゃないかなと思ったんです。バンド内でもラジオ番組でも、わりと僕は取り仕切る側になることが多いんです。なので、乗っからせてもらうというのはすごく新鮮な気持ちです。
清野: そう言っていただけてよかったです、本当に。ハマさんと話していていちばん印象に残ったのは、「ベースという楽器の役割が、バンドのなかでなかなか認知されてない」ということなんです。そういう悩みを僕も実況という仕事で抱えているんですよ。この仕事ってなかなか認知されない。だからベースと実況は近いんじゃないかと僕が勝手に思っているのかもしれないですが。今回はベースに脚光を当てるお手伝いを僕の実況ができればいいなと思ってます。
ベースの奥深さを実況で解き明かすような?
ハマ: このイベントが終わったら「あれ? 耳がベースに集中してる?」みたいな変化が起きたらいいなと。これまで聴こえなかったベースの音が、今回のイベントを通じて聴こえるようになってるとか。そういうことっていくつになってもあるんですよね。清野さんとなら、そういう「耳を育てる」ようなことをうまくできるなと思ったんです。その時間を経験することによってお客さんが、音楽に対してちょっとでも違うチューニングができるようになって、楽しむ幅が広がるものになったらいい。その題材をベースでやるという感じです。きちんと演奏もしますし、あとは「今後二度とないんだろうな」というような実験的なことを実況していただくというのも考えてます。
「今後二度とないんだろうな」というのは、ただごとではないですね(笑)。
ハマ: ないと思いますね。普通のベーシストがやらないようなことです。1曲のなかでベースを10本持ち変えるのは過去にもやったことはあるんですが、今回のはやったことないです。
しかし、やったことないと言えば、このイベントは毎回「やったことないこと」ばかりですよね(笑)。何回やっても清野さんにとって蓄積が効かないというか、ゲストのジャンルも芸も変わるので、本当に毎回ゼロからのやり直し。
清野: 「この先どうなるかわかんないな、失敗するかもしれないな」という緊張感を、僕はやっぱり味わいたいんですよ。そういうドキドキが見えたときのほうがお客さんも湧きますね。「これやばい、焦ってるな」みたいな(笑)。
ハマ: ライブですよね、本当に。
清野: そうですね。実況の仕事自体が、まさしくそうじゃないですか。進行が決まってるわけじゃない。僕らの世界にはリハーサルが存在しないし、仕事は基本的に生中継ですし。
音楽でいうと、インプロヴィゼーション(即興演奏)とか、ジャム・セッションに近いかも。
ハマ: そうですね。
ここまでのお話を聞いていると、今回の清野さんは、いつもよりは引き出す側というか、相手の技をいっぱい受けていっぱい受け身を取るようなスタンス?
清野: うーん、そうですね。
と言いつつ、清野さんの精神はプロレスラーですからね。受けてばかりと見せかけて、随所で攻めや反則をしてくるかも(笑)。
ハマ: そこも楽しみですね。
音楽のライブはプロレスに近いところがある
このシリーズって、お互いにプロレス好きという共通項で発展するケースもあったじゃないですか? ハマさんはプロレスについてはどういうイメージをお持ちなんでしょう?
ハマ: 詳しくはないですけどね。ショーであり、本気のバトルでもあるし、そこに人情やキャラクターがある。格闘技とはまた別物で、何も知らなくても見てると楽しいというのはありますね。ライブをやってホテルに帰ってきて、部屋のテレビを点けたらやってることが多いですね。
清野: へえ!
ハマ: プロレスって、素人から見るとわからないことが多いじゃないですか。その行間を読ませる感じというか、そこを感じ取れるようになったらもっと楽しめるんだろうなと、テレビを見てて思ったりしますね。そういうカルチャーとして面白いんじゃないですか?
清野: はい、40年プロレスを見続けても本気とショーのサジ加減がどこまでなのか、わからないんです。
ハマ: 独特のユーモアというか。リングでマイクを持つときも人間の面白いところがすごく出てる。結構レベルの高いものなんだろうなと感じたりします。
清野: ミュージシャンのライブを見ていると、僕は似たようなことを感じるんですよ。セットリストとか、アンコールで何をやるとか、はっきり言って決まってるわけじゃないですか。だけど、本当にお客さんの反応がよくて、やりたくなっちゃったからもう一回出てきたという感情はウソじゃないですよね。これはプロレスに似てますよね。「出てきてほしい」「もう一曲やりたい」というお客さんとのリアルな感情のやりとりって面白いですよね。
ハマ: それは本当にそうかも。気分が乗っかってくるんですよ。
ライブあるあるで言うと、ドラマーが走っちゃった(速いテンポで演奏を始めた)けど、バンドも大変な思いでついていくけど、結果的にそれがすごく興奮する演奏になる、みたいなこともプロレスに近いかもしれないですね。
ハマ: 生き物ですから、条件反射というのはあるし。そういう共通項は(音楽のライブとプロレスには)あるかな。
過去にミュージシャンが多く出てくれているのも、そういう通じ合う部分があるからかも。ミュージシャンと清野さんの組み合わせは、今回で何回目でしたっけ?
清野: SKY-HIさん(ラップ)、ミトさん(作曲)、ピエール中野さん(ドラム)、高田漣さん(スチールギター)U-zhaanさん(タブラ)、ときて6回目ですね。
イベント自体が今回で13回目なので、実はこのシリーズの半分くらいはミュージシャンなんです。意外とイベントの核になっている。
ハマ: 清野さんは無意識にプロレスを客観視できるし、その現場にいる人たちが言葉にできない感情を代わりに鮮明にするお仕事。それがリアルだから他業種の人でもシンパシーを感じて一緒にやれるのかも。レスラー同士だと「わかります」で言葉にしないことを言葉にする。すごい仕事だなと思います。
清野: いやあ、うれしいですね。本当に光の当たらない仕事ですから!

今回ふたりともヘッドセットマイクでやります
清野: ちなみに、ハマさんは、これまでベーシスト単独でステージに立ったことはほぼないんだそうですね。かなり貴重だと思います。
ハマ: ベースってリズム楽器だし、合奏して意味があると思ってるんです。あと、純粋にひとりで弾くのは恥ずかしい(笑)。楽器屋さんでやるセミナーとかを別にすれば、今まではベースを弾くだけで人前に出るのは避けてきたし、お誘いも断ってきたんです。ラジオで弾いたりするのもイヤでした。でも、30歳を節目に、意思疎通ができて信用できる人とだったらやってもいいと思うようになって、そのちょうどいいタイミングで清野さんからのオファーだったんです。
清野: その解禁第一号が僕だったとは! いいのかなあ(笑)。
でも、清野さんはちゃんと実況でベースの定義づけをする役割だから、いいんじゃないですか。
清野: 責任重大ですね! もしもここでつまづいたら、「やっぱベースのイベントはダメだな」ってもうやらなくなっちゃうかも。
ハマ: いい意味で、最初に超テッペンの人と一緒にやれるわけなので、「今後生半可なことはできないよな」と思うでしょうね。
「あのとき清野さんとやった快感には達してないな」という基準になっちゃうかも。
ハマ: 「じゃあ、いつも清野さん呼ぶしかないよな」ってなりますね(笑)。
清野: それはうれしいかな!(笑)。
ハマ: あとネタバレにならない要素で言うと、今回ふたりともヘッドセットでやります。僕も自前のを持っていきます。
清野: なんとハマさんもヘッドセットマイク。これはいいなあ!
2022年5月19日 東京都千代田区 TOKYO FMにて収録
司会・進行/松永良平

ハマ・オカモト(ベーシスト)
1991年東京都生まれ。中学時代にベースと出会い、演奏を始める。2010年にOKAMOTO’Sのメンバーとしてデビュー。ベーシストとして数多くのレコーディングやライブにも参加しており、その演奏力は高い評価を得ている。2013年には日本人で初めて米国フェンダー社とエンドースメント契約を結ぶ。
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