実況芸

SESSION 7

ねづっち清野茂樹

謎かけが実況のオチになる

このシリーズもいよいよ7回目です。

清野茂樹(以下清野): 今回はずばり、実況と謎かけです。

ねづっち: 清野さんが何かのお題で実況をするんですが、僕が解説のようなかたちで横にいて、最後に謎かけでオチをつけていくようなことをやる予定です。

清野: 実況の解説役をやっていただくというのは、このセッションシリーズでも初めてだと思います。前回の紙切り芸の林家正楽師匠の時は、お客さんからお題をいただいて、同じテーマで2人が違う表現をするということでしたけど、今回は同じ方向に二人で進んでいくんですよ。そして、普通は実況にはオチがないところををねづっちさんに謎かけで落としていただくんです。

そのお題はお客さんからいただくので、何が来るかはわからないわけですね。ねづっちさんは常日頃からそういう現場には慣れてらっしゃるとは思いますが。

ねづっち: ええ。でも、普段はお題が来て、それを謎かけするだけですからね。今回はお題が来て、まず先に実況があるので、それがどういう方向にいくかを聞かないと謎かけも考えられない難しさはあります。だから、当日は結構自分の中ではピリピリしてると思います。

清野: 実況を聞かないと「整いました」にならないということですよね。

ねづっち: そうなんです。

「はい、ここで謎かけお願いします」みたいな合図は清野さんが出すんですか?

清野: 僕が「どうでしょう?」って、プロレスの解説者に聞くみたいにするんですかね?

ねづっち: 実況の途中で思いついた場合は、「あ、ちょっといいですか!」みたいに謎かけで横入りするのもあるかもしれないです。

清野: それもおもしろいですね。本当に毎回、相手によって実況とのセッションの仕方が違うんですよ。

謎かけばかりしてる飲み会がある

だからこそいつもおもしろいんですよね。そもそもねづっちさんと清野さんが一緒にやることになった経緯は?

ねづっち: ロケット団の三浦(昌朗)くんが、僕と清野さんの共通の知り合いなんです。三浦くんから「清野さんっていうアナウンサーの人が連絡取りたいって言ってますけど」ってLINEが来たので、「いいですよ」ってつないでもらいました。

清野: そうなんです。次どういう人がいいかなと考えてるなかで、即興芸として謎かけがおもしろいんじゃないかとまず思ったんです。テレビで見ていても、ねづっちさんの謎かけの即興ぶりはすごいじゃないですか。実際に生の舞台も見たら「やっぱりすごい」と感心して、しかも実況との相性も悪くはないんじゃないかと思ったんです。それで三浦さんにお願いしてお声がけしたんです。それまでは面識はまったくありませんでした。

ねづっち: 僕もプロレスは子どもの頃から見てますし、古舘伊知郎さんの実況は聞いてましたからね。今回のお話をいただいたときも、ちょっとおもしろそうだなと思って、やってみたくなりました。

清野: 毎回のお相手にも思いますけど、よくぞ乗っかってくれました。

清野さんとしては、実況と謎かけの共演がこういう形なら成り立つというイメージは最初からできてたんですか?

清野: いや、それが最初はあんまりなくて。「一緒にやりたいんですけど」という気持ちだけを先に伝えて、「じゃあ、どうやったらできるだろう」というのを打ち合わせして、そのなかでいくつかお互いにアイデアを出していって固まってきた感じですね。それで、その打ち合わせの場で「ちょっとやってみましょうか」と、実際にいくつか一緒に合わせてみたんです。そしたら、まあまあなんとかいけそうな感じがして。

ねづっち: その手応えはありましたね。

ねづっちさんは、今まで他ジャンルとのコラボの経験はあるんですか?

ねづっち: 何度かあります。ギタリストと僕とで一緒にやったことはあるんですけどね。ギターの人が自分の腕を見せたくて長く引っ張るんで、なかなか僕に入らせてくれないというのがありました(笑)。でも、実況とは初めてです。

清野: とにかく、今回は「即興」というところから出てきたアイデアですね。即興でどれだけやれるかが、本当に大事になってきます。

そもそもねづっちさんが謎かけの道に入るきっかけというか、もともと何かに例えるのが好きな子どもだったんでしょうか?

ねづっち: 言葉遊びは好きでしたけどね。謎かけにハマったのは芸人になってからで、落語家さんが噺のマクラで謎かけやってるのを見て、「これよりうまいのを作りたいな」と思ってからでした。

謎かけ力って、どうやって身につけるのか気になります。常に思いついたのをメモしたりしてるんですか?

ねづっち: いや、僕はそれはしてないんです。ただ、謎かけ好きな芸人と飲みに行って、ずーっと謎かけしてるっていうのはありますね。

清野: そういう飲み会があるらしいんですよ。

ねづっち: それがいちばん楽しいですね。

その飲み会って、もしかして会話が謎かけになってるみたいな感じですか?

ねづっち: いや。お題係がいて、その人がいつも300個くらいお題を用意してきてるので、それを出してみんなで答えていくんです。

清野: 300個ですか!

ねづっち: ひとつのお題にひとしきりみんな答えたら、お題チェンジします。お題チェンジのことを僕らは「ODC」と言ってますけどね(笑)

清野: ね? 普段からこういうスパーリングをやってるわけですよ。

すごい。プロレスの道場っぽいですね。

ねづっち: たまに、あんまり謎かけ得意じゃない人が飲み会に混ざると、その人にとってはしごきの時間みたいになっちゃってかわいそうですけど(笑)。こないだも打ち上げで謎かけ会になったんですけど、「もういやです」って死んだような顔してるのが一人いました(笑)

その飲み会の現場は覗いてみたいですね。

ねづっち: 覗きに来たら参加する羽目になりますよ(笑)

清野: とにかく(ねづっちは)びっくりするくらい(謎かけが)速いですから。こないだも僕のラジオ番組『真夜中のハーリー&レイス』に出ていただいて、プロレスをお題に謎かけしていただいたんですけど。「ゴング」とか「ガチンコ」とか。そういうお題でもすぐに対応してくださって、あらためて何が来てもいけるんだなと感じましたね。

談志師匠は謎かけが得意だった

過去に使った謎かけがストックになることもあるんですか?

ねづっち: ありますね。パッと答えてから「あれ? これ前にやったなあ」って思い出すこともありますし。

清野: 「これはウケるだろう」というのを思いついたけど、やってみたらウケなかったというパターンもありますか? あるいはその逆で、イマイチかもと思ってやったらすごくウケたとか。

ねづっち: ありますね。謎かけって耳で聞いてるので、結局わかりやすさが大事なんですよ。ネタ作ってると凝りたくなるし、それが映像だとテロップでわかってもらうこともできるけど、耳だけだと複雑なのは伝わんないんですよね。わかりやすさはいちばん大事ですね。

清野さんも今までの実況歴のなかでいろんなたとえを使ってきたと思うんですが、まったく違う試合なのに「あれ? これ前に使ったことあるたとえだな」みたいに感じることはありますか?

清野: ありますね。いいフレーズを思いつかないときに、前に使ったやつを持ってくるときもあります。これはクラブDJが同じレコードを使うのと同じですよ。実況も速さが勝負なので。遅いのはとにかくダメなんですよ。何を言うかよりも速さが勝負なので。この前、DJも経験しまして、手持ちのレコードの中からその場の雰囲気にいちばん適したものを選ぶ作業、つまり「ベストが出せなかったらベターを出す」って実況の言葉選びに近いと感じたんですよ。そして、この考えって謎かけにも近い気がするんですよね。

ねづっち: そうですね。

ということは、今回はお互いにいちばんスピードの速さがお互いに問われる組み合わせなんですね。

清野: そうなんです。今回はスピード勝負です。

ねづっち: 緊張感ありますよね。

清野: 今回もお互いのソロコーナーがあって、共演コーナーがあるという構成なんですが、共演のとき、例えばお客さんから「コーヒー」ってお題が来たら、もうすぐに実況と解説が始まるわけですからね。それはもしかしたら「ブラジルのコーヒー農場」から始まるかもしれないし、「新宿三丁目の珈琲貴族エジンバラ」からなのかもしれない。とにかく状況設定は僕が始めるわけですから、どこからになるのかわからない。

しかも、ねづっちさんが担当するオチもどこで入ってくるかはわからない。

ねづっち: 思いついて謎かけを言おうと思ったら、もう次の展開にいっちゃってる可能性もありますからね。

清野: とはいえ、お互いにもうこの道で20年くらいやってますから、失敗して怪我はしないようには着地したいなと。

ねづっち: そうですね。お互いにおいしくなるようにしないといけませんね(笑)

清野: とにかく、こういうのを他にやってるのを聞いたことないので。

コントの設定とかであるかもしれないですけどね。実況と解説で、解説が謎かけでひたすらボケ倒すという。でも、ボケとしての謎かけの精度がすごく要求されますからね。普通では難しいでしょうね。

清野: ですよね。だから、あとは僭越ですが、みなさんにこの謎かけという芸をもっともっと楽しんでもらいたいです。本当にすごい世界ですよ。

ちなみに、謎かけ芸の世界というのは裾野はそれなりに広がっているんですか?

ねづっち: 狭いですよ。狭いから一緒に飲む仲間のことは絶対に貶さないんです。謎かけを嫌いになって欲しくないから(笑)

清野: 若い子で謎かけを始めようという芸人さんはいます?

ねづっち: 後輩でもいますよ。なかでも、紺野ぶるまちゃんはすごいですね。あと、コージー冨田さんも謎かけは速いです。

往年の名手みたいな存在もいらっしゃるんですか?

ねづっち: 僕が聞いた話だと、(立川)談志師匠はすごく謎かけが得意だったそうです。

清野: へー!

ねづっち: 部屋の天井に単語を書いた紙を貼って寝るときに練習していたらしいですよ。たぶん、若い頃の話だと思うんです。当時はキャバレー全盛で、そういうところに余興で呼ばれて落語やったってみんな聞いてくれないじゃないですか。そのときにお客さんからお題をもらって謎かけするっていうのがウケが良かったらしくて。どんなものでも答えられるように日々練習してたそうです。

清野: それは知らなかったですね。

すごい。それを表の芸としてはあまり見せてないとしたら、それもまたプロレスに例えていうと「試合も強いけど、道場でのスパーリングもめちゃめちゃ強かった選手」みたいな。

清野: ですよね!

ねづっち: 本業は落語じゃないですか。おそらく師匠も余技としてやってたとは思います。

清野: でも、それって隠された必殺技みたいなものじゃないですか。そういう芸をねづっちさんは表に出てやっているということを今回はみなさんに知ってほしいですよね!

2019年9月25日 東京都新宿区 珈琲貴族エジンバラにて収録

司会・構成/松永良平

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