前回の高田漣さんが、清野さんのこの実況イベントの10回目。今回が11回目で、新たな段階に入りました。今回はインドの伝統楽器であるタブラ奏者として、本当に各方面で活動されているU-zhaanさんを迎えての開催になります。毎回、ゲストの方にお聞きしてるんですが、そもそも清野さんと知り合ったきっかけは?
U-zhaan: 清野さんのラジオ『真夜中のハーリー&レイス』に呼んでもらったのがきっかけじゃないですか?
清野茂樹: そうですね。あれはたぶん、2年前だったと思います(2019年7月28日)。あの出演がきっかけですよね。でも、じつはその前に一回お会いしたことがあるんです。それは2010年の話です。
結構前ですね。
清野: その頃、漫画家でイラストレーターの本秀康さんが『レコスケ・レディオショウ』というネットラジオをやってらして、僕が番組の制作を担当してたんです。そこにU-zhaanさんがゲストでいらっしゃったのが最初です。
U-zhaan: あー、はいはい。
清野: ちょうどU-zhaanさんがrei harakamiさんと「川越ランデヴー」という曲を出された頃でした。本さんがジャケットを担当されたということもあり、U-zhaanさんを番組に呼びたいという流れになったんですよ。そのとき収録の現場でごあいさつしたのが、僕とは初対面だと思います。
U-zhaan: i-Radioの番組でしたよね? 清野さんはなぜ制作をやってたんですか?
ですよね? しゃべりで出演されていたわけでもなく?
清野: はい。僕は当時そんなに忙しくなく、というか、はっきり言ってヒマだったんですよ!(笑)。プロレスの実況もやってましたけど、そんなに本数も多くなかった。それでラジオ番組でも作りたいなと思い、「本秀康さんで番組やりたい」と企画を持ち込んだんですよ。
U-zhaan: 制作って、どういうことをやるんですか?
清野: 台本を書いて、調整卓に座って録音をして、録音データを持ち帰って家で編集して完パケにして納品するまでが仕事です。
U-zhaan: めっちゃ大変じゃないですか。
清野: はい。でも、僕は20代の頃はラジオ局の社員として制作もやってたので、番組を編集したりするのは毎日の仕事だったんです。なので、ラジオ番組を作るという仕事は、僕にとっては日常的なことでした。
U-zhaan: へー。清野さんみたいな人が制作にいたら目立つでしょうね。
清野: どうなんでしょう? U-zhaanさん来たときも制作として裏方に徹していたと思うんですが。
U-zhaan: そうでしたね。「じつは実況アナウンサーやってまして」みたいな話もされてないですもん。
してなかったんですか。
清野: してないと思います。だって、そんな人が制作でいたら、嫌でしょう?(笑)
U-zhaan: 嫌じゃないですよ、全く。
清野: アクが強すぎませんか?
U-zhaan: いえいえ。でも確かに、そのときの清野さんについては、ぜんぜん憶えてないな。本さんが帰りに韓国料理をごちそうしてくれた記憶はあるんですけど。
逆にいうと、清野さんはU-zhaanさんのことを印象深く覚えていた?
清野: はい。「川越ランデヴー」はすごくいい曲だったし、あの頃はiPodに入れてよく聴いてました。
U-zhaan: ありがとうございます。
清野: それが2010年ですよね。そのあとも僕は一方的にU-zhaanさんの音楽を聴いてました。でも、U-zhaanさんは『ヨルタモリ』とかテレビにも出る人気者になっていたんで、僕がやっているようなラジオ番組に出てくれるとはちょっと思えなかったんですよ。実際、あの番組、オファーして断られることも多いんですよ(笑)。
U-zhaan: そうなんですか?
清野: メリットがない、と先方が感じるんですかね?(笑) プロレスラーがよく出てる番組にミュージシャンとか他のジャンルの人が出ることでどれだけ世の中にアピールができるのか、マネジメントも考えますよね。
U-zhaan: うーん、そんなことないと思うけどな。まあ僕は事務所に所属してないから、わからない部分もありますが。マネージャーがいたら断っちゃったりしたんですかね(笑)
清野: そこは大きいかもしれないですね。
U-zhaan: でも、清野さんとのやりとりは難しいんですよ。清野さんからのメールは、何度救出しても「迷惑メール」に入っちゃうから。
清野: らしいですね!
U-zhaan: ぜんぜん気付けないんですよ。最近やっと正規の受信ボックスに振り分けられるようになりましたけど。
清野: 僕以外にそういう人はいないんですか?
U-zhaan: ほとんどいないですね。
清野: なんでなんだろう?(笑)
U-zhaanさんは普通じゃないことをやる人だから
U-zhaan: 『真夜中のハーリー&レイス』に僕が出たときって、何人目くらいのゲストですか? 60人目くらい?
清野: いえいえ、もっとですよ。だって今510人目くらいだから、U-zhaanさんは400番目くらいの頃ですかね。
U-zhaan: ということは、清野さんの興味の順番としては、僕は400番目くらいだったということですかね。
清野: いやいや、そんなことないですよ!(笑)
U-zhaan: 断られてる人たちも加えたら1000番目くらいかもしれない。
清野: プロモーションとかいろんなタイミングもあるので。順番は順不同なんです。だってほら、『ヨルタモリ』の頃に声かけても絶対ダメだったと思うんですよ。
U-zhaan: だから、そんなことないですって。清野さんの番組に出たのって、いつでしたっけ?
清野: 2019年の7月です。〈あいちトリエンナーレ〉の前でしたね。
U-zhaan: その頃のほうが相当忙しかったですよ。
清野: そうですか! そういえば、あのとき「今度、〈あいちトリエンナーレ〉で丸40日間タブラの練習をするっていうインスタレーションをやるんですよ」ってお話を聞いてましたね。それで、「40日間タブラを叩く姿を人に見せる」と聞いたときに、「あ、U-zhaanさんはそういう普通じゃないことをやる人だから、僕の企画に乗ってくれそうだな」という気がしたんですよね。
そうか、そのときは、もうこのシリーズは始まってましたね。でも、その出演の日にはU-zhaanさんにはオファーしなかったんですよね?
清野: 「なんか一緒にやりたいですね」くらいのことは言いましたね。U-zhaanさんからも「またそのうちお会いするような気がします」と言われて。
U-zhaan: でも、ぜんぜん会わなかったですね(笑)
清野: まったく会わなかったです!(笑)
U-zhaan: いや、たとえばクラムボンのライブを見に行ったら清野さんもいらっしゃってたとか、そういうことがあるんだろうなと思ってたんですけど、コロナ禍になってどこにも行けなくなったから会うわけがないんです。
清野: 確かにそうですね。コロナの半年くらい前でしたもんね。
じゃあ、今回は満を持して、と言いますか、なかなか会わないからこっちから会いに行くぞ的な清野さんからのオファーをして。
清野: そうですね。これは人に頼まれてやってるイベントではないので、自分が動かないと前に進まないんですよ。それでU-zhaanさんにメールを送ったのが、今年の初めだった気がしますね。
U-zhaan: そうですね。
清野: ところが、これがまた「迷惑メール」のほうに入ってしまって。
U-zhaan: 申し訳ないです(笑)
清野: しばらく返事が来ず。「ああ、これは遠回しに断られた」と思ってたんです。
U-zhaan: 「迷惑メール」フォルダから消えてしまう直前くらいに気が付きました。
清野: 見つかってよかったです。
U-zhaan: こういう現象が起きるのは、本当に清野さんくらいですからね。
清野: わからないな! なんでなんだろう?(笑)まあ、でも縁が危うく切れそうなところでなんとかつながってよかったです。
「迷惑メール」が取り持った縁!
依頼の時点では、清野さんにはアイデアはあったんですか?
清野: U-zhaanさんのほうから「どういうやり方ができますかね?」みたいな質問があったんです。それに対して、僕のほうからアイデアをメールで再提案したんです。そしたら、それがまた「迷惑メール」になっていたらしく。
(爆笑)
U-zhaan: これ、ウソじゃないんですよ。返事が遅くなったときの常套手段として使っているわけじゃないんで。本当に清野さんだけ「迷惑メール」に振り分けられちゃう。
清野: で、結局メールが見つかって「いいですよ」という返事が来たんです。そういうやりとりでした。
U-zhaan: なにか具体的なアイデアに対してOKしたというよりも、「こんなに迷惑メールに入る人は面白いからなにかやろうかな」みたいな感じでした。
清野: あとで電話でも「なんでOKしてくれたんですか?」って聞いたんですよ。そしたら「2回言われたら、それはもうやりますよ」と。
U-zhaan: 著しく返事が遅くなるという失礼をこんなに繰り返してたのに、それでもまた声をかけてくださるのなら「これは引き受けるしかないな」ってなりますよね。
「迷惑メール」が取り持った縁!(笑)
U-zhaan: 清野さんのメールが普通にすんなり届いてたら、もっと早い時期に決まってたかもしれないですけどね。
清野: 確かに!(笑)
まあ、「迷惑メール」のおかげでいい溜めが生まれたということで(笑)。では、ここからはイベントの中身についての話ですけど、どうでしょう? 清野さんとミュージシャンの組み合わせも回数を重ねてきましたけど、毎回やってることが違いますからね。
清野: そうですね。ただ、セッションに関してはU-zhaanさんはエキスパートだし、いろんな方とやられてるのでそこはあんまり不安視してないですね。
U-zhaan: 僕は非常に不安ですよ。
清野: あ、本当ですか?(笑)成立しないんじゃないか、とか?
U-zhaan: まあ、なにしろ実験的な試みですからね。清野さんのほうはヴィジョンが見えているんですか?
清野: うーん、そうですねえ。でも、打楽器としてのタブラは実況と相性がいい気がするんですよ。それに、タブラを実況するなんてことはインドでもたぶんやった人いないと思うんです。
U-zhaan: きっとやっていないでしょうね。
清野: だとすると、これは世界初になる公算が高いし、そこには大きなモチベーションがあります。
U-zhaan: でも、清野さんがこれまでやってきた実況企画は、ほとんど全部「世界初」なんじゃないですか?
清野: そうかもしれない!(笑)「世界初を更新し続ける男」!
タブラを鳴らすとインドの風が吹いてしまう
U-zhaanさんがこれまでやってきたいろんなコラボのなかで、今回と似たような試みってありましたか?
U-zhaan: 古舘伊知郎さんが般若心経を読むのとセッションしたことがあるんですが、それはどこか通じるところがあるかもしれないですね。
清野: あれはフジテレビ『トーキングフルーツ』(2017年5月3日)の企画で、僕もオンエアを見てました。あれは僕にとってひとつの目盛りなので、「あれより面白いものをやってやるんだ」という気持ちでいます。
U-zhaan: まだ僕らには考える時間がありますからね。
古舘さんは清野さんにとって心の師であり、越えなきゃいけない存在でもありますからね。
清野: 本当にそうですね。
当日は、タブラ演奏を実況するという共演がひとつ。もう1パターンくらい考えてはあるんですか?
清野: 逆パターンというか、僕が実況しているものに伴奏をつけてもらうのはアリでしょうね。さらにそこに実況を足していくというのもあり、でしょう。
U-zhaan: 今まで、ポエトリー・リーディングや無声映画に即興で伴奏をつけるとか様々なオファーを受けてきたんですが、なかなか難しいんですよ。タブラって、音を鳴らすと自動的にインドの風が吹いてしまうところがあるんですよね。インドの古典楽器だから当然なんですけど。
清野: そこで僕もしゃべりの内容をインドに寄せたほうがいいのか、寄せないほうがいいのか考えさせられますよね。
いろんな難しさはこれまでのイベントでもありましたけど、僕が見てきた範囲でも奇跡の着地をしたりするんですよね。
清野: そうですね。みなさんやっぱりプロだから、ちゃんと形にしてくださるんですよ。それに、このイベントは本当にスリリングで「やばい、やばい、やばい、どうしよう?」みたいな感じになる。それがたまらないんですよ。
U-zhaan: アドレナリンを出したい、みたいな。
清野: そうなんです! もっと言うと、痛い目にも遭いたいですね。
U-zhaan: そうですか……。僕は平穏を望んでいるんですけど。
清野: とんでもないことに巻き込まれましたね(笑)。でも、たまにはいいですよ。
U-zhaan: なるべく刺激が少なめの人生を送って行きたいと思っているんですが。
清野: 刺激しかないイベントだと思います(笑)
反則もカウントスリーまではOKというところもこのイベントには暗黙のルールとしてあるような気がします。
清野: そのマインドはたぶん、U-zhaanさんもわかってくれてると思うので。
U-zhaan: いや、そんなルールは共有できてないですよ(笑)
これまでは「場外リングアウト」みたいな終わり方はなかったと思うので。
U-zhaan: 実況芸セッションでリングアウトってどういう決着になるんですかね。
清野: 見た人たちがモヤモヤしたものを抱えながら帰るというね(笑)。今の時代のプロレスからは、もはやそういう感覚は絶滅してしまいましたが。
U-zhaan: 昔は両者リングアウトってよくありましたもんね。今はないですか。
清野: はい。ほぼ完全決着ですね。時代がガラッと変わりました。世の中全体にも言えるのかもしれないですけど、余白がないというか、白黒きっちり分かれがち。今回のステージでは、そういう余白も楽しんでいただきたい。「あれはいったいなんだったんだろう?」みたいなことを考えて帰ってほしいです。
それって清野さんが「僕が場外に誘い出しますよ」と予告してるようなものじゃないですか?(笑)
清野: そういう展開になっても許してね、ということですね(笑)
U-zhaan: あんまり瞬発力があるほうじゃないんですけど、大丈夫かな(笑)
2021年7月12日 オンラインにて収録
司会・構成/松永良平
U-zhaan(タブラ奏者)
1977年埼玉県生まれ。18歳でタブラと出会い、世界的タブラ奏者、オニンド・チャタルジー、ザキール・フセインに師事。2014年にソロデビュー後も、ヒップホップやポップス、ジャズ、エレクトロニカなどジャンルを超えたコラボレーションにも積極的。また、フジテレビ『ヨルタモリ』やテレビ朝日『題名のない音楽会』などテレビ番組でもおなじみである。